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ジャンル:アイドル・芸能人 催眠・洗脳 日常・生活 ほのぼの 脚 男性向け 成人向け ブラウザ視聴 iPhone・iPad対応 Android対応
「遅いな・・。」
僕はチラリと車中の時計を見た。彼女の職業柄しょうがないが既に約束の時刻から一時間ほどオーバーしている。このままでは切符を切られてしまう可能性がある。駐車スペースを変えた方が賢明だろうか。
「・・あ、来た。」
会場からドレス姿の女性が姿を現した。言わずと知れた飛ぶ鳥を落とす人気女優の渚さんだ。顔を隠すほどの大きなサングラスをかけている。僕は後部座席の扉を開けた。
「ふう。」
渚さんはため息と共に車に乗り込んできた。
「お疲れ様です。」
「ええ、ありがと。本当に疲れたわ。」
渚さんはサングラスを外して小さく伸びをした。片渕渚。21歳。18歳から始めた芸能活動で、老若男女問わずに絶大な支持を集めている。なによりも彼女の一番の魅力は、その飾らない人柄だろう。
僕は急病になってしまった友人に変わって、ほんの一時的な代理で彼女のおマネージャーを務めている。友人曰く、事務所に変わりを頼んだら足元を見られてしまうらしい。芸能界とは難しい世界だ。だが、彼女はそれほど難しい世界で圧倒的な成功を収めている。
僕も彼女のマネージャーになった初日には大層驚いたものだ。なぜなら、余りにもテレビで見る彼女と差異がなかったから。裏では確かに疲れた表情を浮かべる時もあるが、基本的には快活明瞭であると言って差支えが無い。
「今日のパーティーもお疲れ様でした。」
「本当に疲れた・・・。帰るって言いだすタイミングが中々つかめなくてさ。待たせてごめんね。」
「お気遣いありがとうございます。」
彼女はバッグから台本を取り出すと、ブツブツと朗読を始めた。そうか、今期のドラマ撮影中にもかかわらず、もう次のドラマの撮影の準備が始まるんだ。女優さんって、もしかしたらブラック企業よりも大変なのかもしれない。だって、台本を覚えている字間は時給は発生しないのに、覚えていることが当然のような顔で現場に赴かなくてはいけないのだから。
「お腹空いていませんか?。」
「あ、ちょっと空いているかも。」
「コンビニで軽い食べ物買ってきますね。」
「お願い。」
渚さんは、パーティーで余りご飯を食べない。番組関係者が大量にいる場所でたくさんご飯を食べたら、視聴者がギャップを感じて清楚役で売り出している彼女の出番が減ってしまうかもしれないからだ。
「お待たせしました。」
僕はコンビニからおにぎりを二つ買ってきた。
「ありがと。」
彼女はどんなに疲れている時でも、どんなに些細な事でも必ずお礼を言ってくれる。
「やれやれ、清楚役はつかれるねえ。」
渚さんがおにぎりを頬張りながら、ため息交じりに行った。
「僕はあまり芸能界に詳しい訳ではないのですが、方向転換は難しいのですか?」
「嫌いじゃないのよね、清楚役。でも、普段から気を張っていることが多いの。」
それは、普段の渚さんを見ていて痛いほどわかった。なぜならば、渚さんはパパラッチからも付け回されている。人気女優の宿命と言えばそれまでだが、一歩外に出た瞬間から清楚女優を演じ続けなければいけないというのは、いくらなんでも苦痛だ。
「本来の渚さんは清楚じゃないんですか?」
「んー?清楚清楚。見ればわかるでしょ?」
彼女は小さく笑った。この笑顔に、この国に住む人たちは勇気をもらっているのだと思う。それを僕に向けてくれていることが、僕は少し誇らしくもあった。
「・・女優ってね、難しいのよ。私が何か失敗しても、私だけの問題じゃ収まらないのよ。私を支えてくれている事務所の人がいっぱいいるから。その人たちも、私が稼いだお金で家族を養っているのよ。」
渚さんは小さくおにぎりを口に含んだ。
「事務所のみんなが私を支えてくれて、私も出来るだけのことをして事務所を支える。その過程で、私のやりたいことなんて実に些細な事なのよ。それに・・。」
「それに?」
「そんな私の様子を見て元気をもらってくれているって人が沢山いるから。それが嬉しい。」
彼女は眩しい笑顔を浮かべた。スマホでほんの少し情報を調べればいくらでも罵詈雑言でなじられる世界で、渚さんは闇に浮かぶ光の様に輝き続けていた。
この仕事をやって色んな人を見た。雑誌で微笑んでいるあの子も、お婆ちゃん思いだと公言していたあの子も、裏では誰かの悪口を言って、ADにお礼も何も言わなかった。大物司会者の前だけ下げ媚びついてる子たちばかりだった。でも、この人は違う。この人は清楚だと思う。この先、いろんな兼ね合いで見た目が変わるのかもしれない。でも、僕はこの人は本当に綺麗な人だと思う。世間がどう思うのかは知らない。でも、僕は知っている。
「お疲れ様です。」
「はーい、お疲れ。」
その日も僕は、車で彼女を待っていた。彼女は台本を取り出して、再びセリフを覚え始めた。僕はコンビニからおにぎりと、脳の糖分補給のためのブドウ糖を買って来た。
「お、ブドウ糖! お主やるな。」
彼女はおどけて見せていた。ドラマの撮影まで期間が迫っているのに、余裕がある人だと思った。
「ありがとうございま。。」
この人に褒められると、子供の頃お母さんに褒められた時みたいに嬉しくなってしまうのだ。
「でも・・。」
彼女は台本をパタンと脇に置いた
「台本を覚えるのって大変。」
「昔の俳優さんは、障子や食べ物、あらゆるものにセリフを書いていた人も居たそうですよ。」
「へえ、私もやりたい。」
「でも、その人はかなりの大御所でした。」
「じゃあ無理だ、残念。」
彼女は本当に残念そうに肩をすくめた。
「あ、でも。」
僕は続けた
「何?」
「あれが使えるかもしれません。催眠術。」
「催眠術?」
渚さんは繰り返した。
「はい。昔少し勉強していた時期があって。記憶力が上がります。」
「催眠術ね。あれって本当にあるんだよね。」
「え、はい。」
僕は戸惑った。催眠術の存在をいきなり肯定されると思っていなかったから。
「この前バラエティに出た時に掛けてもらったの。」
「へえ・・どうでした?」
「うーん、催眠術師の人も生活があるし、家族だっているだろうからね・・。察して。」
渚さんは目を伏せた。僕は催眠術師の人を馬鹿にしない渚さんを誇りに感じた。それだけじゃない。渚さんは人の悪口を言わない。言っているところを聞いたことが無い。
「なんか、予備催眠?っていうの?あそこ辺りから、少し雲行きが怪しかったんだよね。」
「確かに、かかる人と掛からない人が存在しますね。」
「私、今日調子が悪いかもしれないですって遠回しに伝えたんだけど、催眠術師の人だっ私と同じようにて事務所や家庭があるんだって思ったら、ま、いいかと思って。」
「・・・ご立派です。」
「ありがとー。ふふっ。」
渚さんは再び台本に手を取って暗記を始めた。しかし、これは困ったと思った。初めて経験した催眠術で、予備催眠を失敗するとその後、その人間は催眠術に掛かりにくくなると言われている。渚さんの為に役に立ちたいのだが、何か良い考えはないものか。
4921文字
PDF形式
価格:864円
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僕はチラリと車中の時計を見た。彼女の職業柄しょうがないが既に約束の時刻から一時間ほどオーバーしている。このままでは切符を切られてしまう可能性がある。駐車スペースを変えた方が賢明だろうか。
「・・あ、来た。」
会場からドレス姿の女性が姿を現した。言わずと知れた飛ぶ鳥を落とす人気女優の渚さんだ。顔を隠すほどの大きなサングラスをかけている。僕は後部座席の扉を開けた。
「ふう。」
渚さんはため息と共に車に乗り込んできた。
「お疲れ様です。」
「ええ、ありがと。本当に疲れたわ。」
渚さんはサングラスを外して小さく伸びをした。片渕渚。21歳。18歳から始めた芸能活動で、老若男女問わずに絶大な支持を集めている。なによりも彼女の一番の魅力は、その飾らない人柄だろう。
僕は急病になってしまった友人に変わって、ほんの一時的な代理で彼女のおマネージャーを務めている。友人曰く、事務所に変わりを頼んだら足元を見られてしまうらしい。芸能界とは難しい世界だ。だが、彼女はそれほど難しい世界で圧倒的な成功を収めている。
僕も彼女のマネージャーになった初日には大層驚いたものだ。なぜなら、余りにもテレビで見る彼女と差異がなかったから。裏では確かに疲れた表情を浮かべる時もあるが、基本的には快活明瞭であると言って差支えが無い。
「今日のパーティーもお疲れ様でした。」
「本当に疲れた・・・。帰るって言いだすタイミングが中々つかめなくてさ。待たせてごめんね。」
「お気遣いありがとうございます。」
彼女はバッグから台本を取り出すと、ブツブツと朗読を始めた。そうか、今期のドラマ撮影中にもかかわらず、もう次のドラマの撮影の準備が始まるんだ。女優さんって、もしかしたらブラック企業よりも大変なのかもしれない。だって、台本を覚えている字間は時給は発生しないのに、覚えていることが当然のような顔で現場に赴かなくてはいけないのだから。
「お腹空いていませんか?。」
「あ、ちょっと空いているかも。」
「コンビニで軽い食べ物買ってきますね。」
「お願い。」
渚さんは、パーティーで余りご飯を食べない。番組関係者が大量にいる場所でたくさんご飯を食べたら、視聴者がギャップを感じて清楚役で売り出している彼女の出番が減ってしまうかもしれないからだ。
「お待たせしました。」
僕はコンビニからおにぎりを二つ買ってきた。
「ありがと。」
彼女はどんなに疲れている時でも、どんなに些細な事でも必ずお礼を言ってくれる。
「やれやれ、清楚役はつかれるねえ。」
渚さんがおにぎりを頬張りながら、ため息交じりに行った。
「僕はあまり芸能界に詳しい訳ではないのですが、方向転換は難しいのですか?」
「嫌いじゃないのよね、清楚役。でも、普段から気を張っていることが多いの。」
それは、普段の渚さんを見ていて痛いほどわかった。なぜならば、渚さんはパパラッチからも付け回されている。人気女優の宿命と言えばそれまでだが、一歩外に出た瞬間から清楚女優を演じ続けなければいけないというのは、いくらなんでも苦痛だ。
「本来の渚さんは清楚じゃないんですか?」
「んー?清楚清楚。見ればわかるでしょ?」
彼女は小さく笑った。この笑顔に、この国に住む人たちは勇気をもらっているのだと思う。それを僕に向けてくれていることが、僕は少し誇らしくもあった。
「・・女優ってね、難しいのよ。私が何か失敗しても、私だけの問題じゃ収まらないのよ。私を支えてくれている事務所の人がいっぱいいるから。その人たちも、私が稼いだお金で家族を養っているのよ。」
渚さんは小さくおにぎりを口に含んだ。
「事務所のみんなが私を支えてくれて、私も出来るだけのことをして事務所を支える。その過程で、私のやりたいことなんて実に些細な事なのよ。それに・・。」
「それに?」
「そんな私の様子を見て元気をもらってくれているって人が沢山いるから。それが嬉しい。」
彼女は眩しい笑顔を浮かべた。スマホでほんの少し情報を調べればいくらでも罵詈雑言でなじられる世界で、渚さんは闇に浮かぶ光の様に輝き続けていた。
この仕事をやって色んな人を見た。雑誌で微笑んでいるあの子も、お婆ちゃん思いだと公言していたあの子も、裏では誰かの悪口を言って、ADにお礼も何も言わなかった。大物司会者の前だけ下げ媚びついてる子たちばかりだった。でも、この人は違う。この人は清楚だと思う。この先、いろんな兼ね合いで見た目が変わるのかもしれない。でも、僕はこの人は本当に綺麗な人だと思う。世間がどう思うのかは知らない。でも、僕は知っている。
「お疲れ様です。」
「はーい、お疲れ。」
その日も僕は、車で彼女を待っていた。彼女は台本を取り出して、再びセリフを覚え始めた。僕はコンビニからおにぎりと、脳の糖分補給のためのブドウ糖を買って来た。
「お、ブドウ糖! お主やるな。」
彼女はおどけて見せていた。ドラマの撮影まで期間が迫っているのに、余裕がある人だと思った。
「ありがとうございま。。」
この人に褒められると、子供の頃お母さんに褒められた時みたいに嬉しくなってしまうのだ。
「でも・・。」
彼女は台本をパタンと脇に置いた
「台本を覚えるのって大変。」
「昔の俳優さんは、障子や食べ物、あらゆるものにセリフを書いていた人も居たそうですよ。」
「へえ、私もやりたい。」
「でも、その人はかなりの大御所でした。」
「じゃあ無理だ、残念。」
彼女は本当に残念そうに肩をすくめた。
「あ、でも。」
僕は続けた
「何?」
「あれが使えるかもしれません。催眠術。」
「催眠術?」
渚さんは繰り返した。
「はい。昔少し勉強していた時期があって。記憶力が上がります。」
「催眠術ね。あれって本当にあるんだよね。」
「え、はい。」
僕は戸惑った。催眠術の存在をいきなり肯定されると思っていなかったから。
「この前バラエティに出た時に掛けてもらったの。」
「へえ・・どうでした?」
「うーん、催眠術師の人も生活があるし、家族だっているだろうからね・・。察して。」
渚さんは目を伏せた。僕は催眠術師の人を馬鹿にしない渚さんを誇りに感じた。それだけじゃない。渚さんは人の悪口を言わない。言っているところを聞いたことが無い。
「なんか、予備催眠?っていうの?あそこ辺りから、少し雲行きが怪しかったんだよね。」
「確かに、かかる人と掛からない人が存在しますね。」
「私、今日調子が悪いかもしれないですって遠回しに伝えたんだけど、催眠術師の人だっ私と同じようにて事務所や家庭があるんだって思ったら、ま、いいかと思って。」
「・・・ご立派です。」
「ありがとー。ふふっ。」
渚さんは再び台本に手を取って暗記を始めた。しかし、これは困ったと思った。初めて経験した催眠術で、予備催眠を失敗するとその後、その人間は催眠術に掛かりにくくなると言われている。渚さんの為に役に立ちたいのだが、何か良い考えはないものか。
4921文字
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